2022年に東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間で開催された「How is Life?――地球と生きるためのデザイン」を紹介します。
今後、世界の8割の人口が都市に住むと言われる時代において「暮らし」というものをもう一度考え直して見ようと企画された、田根剛さん、塚本由晴さん、千葉学さん、セン・クアンさんの4人の建築家による建築展です。
4人の建築家でギャラ間の展示をするなんて珍しいよね
建築家自らの作品だけではなく、古くから日本に伝わる生活の知恵や環境への新しい取り組みを紹介し、稲藁葺や空石積みのワークショップでの実践など、これまでのギャラリー・間の展示ではなかったプログラムが開催されていました。
都市における産業とサービスの依存から離れ、地球環境を考え直すような取り組みは最近増えつつありますが、「How is Life?」という問いは地球環境というテーマ以上にこれまでの建築家ないし、建築のあり方を私たちが考える重要なきっかけであると思います。
21世紀の建築を考える私たちにとって考えるべきテーマが散りばめられたこの展示をもう一度振り返って見ましょう!
20世紀的ワードと21世紀的ワード
千葉学さんは建築を語る際に使われる20世紀的ワードと21世紀的ワードを意識的に分類して使う必要があると言います。
20世紀的ワード | 21世紀的ワード |
空間 計画 自然科学 消費 希少性 経済成長 合理性 | 動的平衡 当事者 環世界 道具 都市の生態系 サーキュラーエコノミー |
例えば、20世紀の希少性という言葉は建築家の作家性や巨匠といった言葉と紐づきます。これまでのギャラリー・間の展示も1人の建築家、グループの独自性をドローイングや文章などのメディアを通して特集を組むことで、作家としての希少性を強調する行為であったと捉えることができます。
展示自体が20世紀の建築家像の見直しを図っているんだ
また、この展覧会の初めのタイトルは「成長なき繁栄の時代にわれわれはどう生きるか?」と名付けられていました。
「成長なき繁栄」とはティム・ジャクソンによる著書のタイトルで、このまま経済成長が進んでいったとしても近代的な方法では寿命に限りがあるという意味が込められており、20世紀的なマクロ経済学の次の段階としての新しい生態系マクロ経済学を提唱しています。
20世紀の生産-消費-廃棄のリニアな流れを持つ産業的サービスから抜け出すために建築がすべきこととして、私たちの暮らしという身体に近いスケールと温暖化や南北格差などの地球に近いスケールの問題の乖離を縮め、人びとの想像力に繋げることが重要だと4人は述べています。
人間が道具を用いて地球にアクセスする
私たちは日々の生活の中で産業的なサービスに対して金銭を支払うことでモノや体験を得ています。この仕組みによって人びとは地球の存在を感じ取る機会が少なくなったといいます。この状況を変えるためには20世紀的な「顧客」から「当事者」へと抜け出す必要があります。
道具を手にすることで、人間は地球を解像度高く感知すると同時に、人間も自らの身体を再発見するのだ。(千葉学)
地球を感知するってよく分からないな。それで自分のカラダを発見??
この場合の地球は、自分以外の事象を指すよ。身の回りのもので考えてみよう!
例えば、落ち葉拾いをする際にホウキを使うとします。地面が舗装されていれば毛に密度のあるチリトリを使えば簡単ですが、地面が土の場合は熊手のような疎の密度が掃除しやすいということは体感でわかると思います。
これは、道具を使うことで舗装された面の固さと土の柔らかさを体感的に区別しており、逆にその性質の違いを理解した上で道具を使用しているという関係が成り立っていると言えます。
ヨットやスキー、ゴルフなどのスポーツも道具を介して自然物のプロパティ(固さ、滑らかさ、抵抗の強さなど)を感じ取り、それに応じて身体の動きを適応させています。
建築においても、かつての日本では茅葺の屋根を作るために「たたき」や「とめばさみ」といった専用の道具を用いて自然物を建材へと変化させていました。
このように道具を手にすることで、ありのままに存在する地球を自分ごととして知覚できるようになり、現状の環境を相対化する想像力を養うことができると展示を通して述べています。
動的平衡を目指して
近年、カーシェアなどの普及によって自動車の所有人口が減り、空き地が共用の自動車の駐車場へと用途を変えてきています。このように各々が個人所有をする静的平衡ではなく、流動的に所有者が変わる動的平衡が主流になってきていると言えます。
日本の里山も人間が雑木林をある程度刈りながら整えることで、山の生態系を維持してきたように人間の管理と自然の成長がせめぎ合うような動的な関係性が本来の自然保護だと塚本さんは指摘しています。
動的な関係性に重きを置いたランドスケープの事例としてジル・クレマンの著書「動いている庭」を紹介しています。
ジル・クレマンは「荒れ地」での植物のふるまいを丁寧に観察し、それらが人間の過度な介入なしに自由に成長できる種の組み合わせを環境の温度や湿度などの自然条件から判断することで動的な本来の庭、まさに「動く庭」を実現しているランドスケープデザイナーです。
昨日はここを歩いていたのに、もう歩けなくなっている。ーこの動きを管理している事実こそが、庭という語を正当化する。(ジル・クレマン)
ただ里山や雑木林を都市の中に再生するのではなく、動的な関係性を築くことで新しい生活様態が生み出されるということが理解できますね。
まとめ
建築が歩んできた20世紀の流れを反省的に振り返りつつ、21世紀に残していくべき考え方や事例を地球環境という観点から提示してくれた展示であったと思います。
この記事だけでは紹介しきれなかった興味深い事例がたくさん掲載されているので、ぜひ手に取ってみてください!
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