近年、環境問題への関心が高まる中でリジェネラティブという言葉を建築業界でよく耳にするようになってきました。
再生や再活性化を意味する言葉で、特に環境や社会、経済の持続可能性に関連して使われます。単なる持続可能性を超えて、自然やコミュニティを回復させることを指します。
農業や海洋問題などで使われることの多かった言葉ですが、建築業界でのリジェネラティブの考え方について解説していきます!
サステナブルとの違いとは?
日本では環境配慮に関する概念としてサステナブルがよく使われる言葉ですが、リジェネラティブとは明確な違いがあります。
サステナブル(持続可能)とは?
サステナブルは環境・社会・経済のバランスを保ちながら、現在のニーズを満たしつつ、将来世代のニーズも考慮する考え方です。資源の無駄遣いを避け、リサイクルをするといった行為が該当します。
環境負荷になってしまう、マイナスになってしまう要素をゼロにする、近づける考え方です。
リジェネラティブ(再生的)とは?
リジェネラティブは再生を重視した考え方です。単に持続可能な状態を保つだけでなく、自然環境やコミュニティを積極的に改善することを目指します。土地や生態系、地域社会の質を向上させ、より健全な未来を築く方法論と言えます。
環境にとって、その行為自体がプラスになるという考え方です。
建築を建てることが、環境にとってプラスになるのは想像できないな〜
サステナブルがCO2やエネルギー効率などの自然環境に対してコミットする考え方に対して、リジェネラティブは広義に環境を捉える傾向があり、社会や文化、コミュニティにも焦点が当たります。
リジェネラティブと建築の関係
サーキュラーエコノミー
資源の循環利用を促進することを指します。建物の解体時に再利用可能な素材を考慮し、新たな建設における廃棄物を最小限に抑える設計もこの考え方の一つになります。
対義語でリニアエコノミーという言葉もあるんだ
食物連鎖のように本来、自然界は廃棄物の無いサーキュラーエコノミーを実現できているのですが、人間が作り出す人工物が廃材となった際に廃材のまま放置してしまうことで、一方向的なリニアエコノミーが生まれてしまうわけです。
2024年にTOTOギャラリー間で開催された「能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築」でも、設営から撤収までゴミを出さず、展示終了後に解体された木材をアップサイクルするなどサーキュラーエコノミーの思想がトレンドとなっていることが分かります。
生態系の回復
建築を建てる際に木造でもS造でもコンクリートの基礎を打つことが一般化していますが、リジェネラティブの思想からコンクリートを流すことで土への水や空気の浸透を防ぎ、土が死んでしまうことが問題となっています。
じゃあ一階部分を高床式やピロティにすれば解決するんだね
基礎だけじゃなくて、建築工事で排出される残土も水はけが悪く、生態系を壊す要因になってるんだ
ただ土と建築の距離を取るだけでなく、土の性質自体もより良くすることでネットプラスを達成することができます。溝に竹炭や落ち葉を敷き詰めることで水や空気を地表から地中へ届けやすくし、土中に竹や小枝などの分解しやすい有機物を混ぜることで良質な土を作るなどの取り組みが近年増えています。
環境問題に取り組んだプロジェクトが多い、ノルウェーのデザイン事務所スノヘッタ(Snøhetta)が開発した菌糸体によるリジェネラティブ防音材も話題になりました。
ノルウェーのスタートアップ企業NoMyとの共同開発で自然界の菌と農業や製紙業などから出る廃棄物を活用した建材で100%堆肥化できる素材で製作されています。ネットゼロだけでなく、堆肥化までを考慮するネットプラスのデザインこそリジェネラティブな活動と言えますね。
余談ですが、2027年に竣工予定のスノヘッタ(Snøhetta)が設計した渋谷の東急百貨店本店解体後の跡地での「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」にも注目ですね!
地域コミュニティとの関わり
地球環境の問題や取り組みを中心に挙げてきましたが、存続が危うい、または失われてしまった文化や伝統を再興させる行為もリジェネラティブな活動であると言えます。
1980年代の高度経済成長で都市部の建設ラッシュでオフィスビルや商業建築が続々と建設される中、80年代後半にはその反動で地域再生やコミュニティ活性化を見直す考えが強くなり、地域住民が主体となったプロジェクトが増えてきました。
1983年に国土交通省が始めたHOPE計画などが代表だね
このように地域コミュニティと建築の関わりは現代の私たちにとっても重要な課題として根付いていますが、新たに住民のニーズとしての環境配慮や地域特性の再生的なアプローチが求められる今、リジェネラティブをキーワードに再度コミュニティと建築の関係を考える必要があるように思います。
建築業界での事例
リジェネラティブデザインの有名な事例として、ニューヨークのハイライン公園があります。このプロジェクトは、廃線を利用して再生された公園であり、都市の生態系を回復させることに成功し年間多くの観光客で賑わう場所になっています。
他の事例も紹介していますので、ぜひご覧ください。
まとめ
リジェネラティブとサステナブルは環境へのアプローチにおいて重要な概念ですが、根本的な目的や方法には違いがあります。
これまでの建築と環境が歩んできた歴史的な背景を理解しながら、リジェネラティブな考えでより深く考察できる建築の新たなあり方を考えていきたいですね!
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